ぱいぱいにっき

Pythonが好きすぎるけれど、今からPerlを好きになりますにっき

2020年の振り返りと2021年の抱負

はい、今年は色々ありましたね。しかし、他人と共有しやすい「色々」があったのであって、毎年色々はあったのではないか、つまり今年は多くの人が同じことを話題にした年であると言えるのではないか、そう考える日々です。

去年のやつ 2019年の振り返りと2020年の抱負 - ぱいぱいにっき

登壇とかイベントとか執筆とか

CircleCI ユーザーコミュニティミートアップ#8

circleci.connpass.com

speakerdeck.com

CircleCIのイベントで話した新しいAPIを活用した話。しかしこのあとにCircleCIもいくつかの新機能が入ったり、社内で一部使い始めているGitHub Actionsも大きく変わったので、振り返るとここはActionsで作るなあとかそういうのもある。これは1月なのでまだオフラインイベントが開催されていた時期。

Tsukuba Mini Maker Faire 2020

あと、仕事とは関係ないのだけれども、2月にTMMFで出展をした。

tmmf.jp

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内容としては、昨年のbuildersconで頒布したFMラジオバッジや自作キーボードなどを展示していた。周囲の出展も面白かった。会場のローカルで熱気が凝縮した雰囲気もあり、東京でやるのとは別にまた出展したいと思った。

吉祥寺.pm23【オンライン】

kichijojipm.connpass.com

あと、オンラインイベントになったあとに、吉祥寺.pmで仕事で取り組んでいる話をした。

speakerdeck.com

この話でおこなった、GoでGraphQLをさばくサーバは無事本番投入して元気に今も動いているので、どこかで話をしたい。

Perl Hackers Hub

それから、WEB+DB PressPerl Hackers Hubでまた記事を書かせていただいた。

gihyo.jp

仕事でも、比率は少なくなったものの、まだまだPerlを書いているを書いているので、コミュニティに何らか還元をし続けたい。

ISUCON 10

isucon.net

藤原組として出た。他のお二人とは普段からよく一緒に仕事していたけれども、ISUCONに一緒に出るのは初めてであった。なんなら藤原さんとは出題時の移植を過去にやったことがある。

成績としては予選落ちだったが、並行回答チームというエキシビジョン枠の形で決勝に参加させていただいて、successしたチームの中では全体3位の成績だったので、良かったなとなった。来年は決勝に出たい。

オンラインイベントについて

みなさんも認識している通り、今年はリアルイベントが激減してしまった年だった。なので、登壇自体もあまりなく、オンラインの勉強会に行ったのもあんまりなく、今年は技術的な悩みを聞いてもらったり、自分が体験していないことを聞くような機会も少なく、今年、それと来年以降の技術に対するスタイルを変えなければならないのかな、とか思っていた。まあ、もがいても体力を食うだけなので、今は様子見状態ですが。

僕は技術勉強会やカンファレンスに行くときの目的として、一番に懇親会をおいていた。本編の登壇は生で話を聞いたり、質問をすることも大きな価値であるけれども、その話を肴に懇親会で他の参加者と技術的な話をして理解度を深めることで、僕は知識を得ていった体験が今まではあった。

一方、今年主流となったオンラインイベントの懇親会は同様の体験を得るのは難しい。今年の前半は、オフラインができなくなったので、オンラインにその代理の体験を求める動きが多かったのだけれども、オンラインはオンライン、オフラインはオフラインという別のものであり、それぞれ代わりになるものではない事がわかってきた。なので、オンラインのイベントでは代わりではなくオンラインならではの情報の取り方、接し方をしなくてはという気持ちがあるのだけれども、なかなか僕なりの答えを見出せていない。

代わりに一人でドキュメントと対峙することも多くなったし、一人でモックをガッと作ってしまうことも多い。発表の場があまりないので電子工作関連もM5Stackを使って色々作っているが、すぐにパーツを使い回すために崩したり、社内の仲間内だけの共有をしていたりする。作ることに専念できていていいのか、それともシェアとコラボレーションのサイクルが回っていかないことを損と考えるのか、わからない。。。。

仕事

今年は仕事の内容が変わった。去年までは社内ツールの作成だったり、技術検証をやっていたのだけれども、今年は運用中のWebサービスのサーバサイドエンジニアの仕事をやっている。その一環が以下のような仕事。

techblog.kayac.com

techblog.kayac.com

今年前半にこのプロジェクトに慣れて、後半は新機能の実装とともに、コア機能をほぼ全部PerlからGoに書き換えるという仕事をした。Goに書き換えた結果、コードの責務が整理されて、ある程度、型安全に守られながら書きやすくなり、レスポンスタイムが安定し、またDynamoDBに置き換えたことでほぼ無限のスケールアウト性能を手に入れた。

よかった、よかったのだが、GraphQL, DynamoDB, クリーンアーキテクチャなどの新しく導入した技術たちは、扱うのが初めてであり、今の時点でもある程度の歪みが生じてしまっている。また、Perlとの旧システムとの連携を取るためにアーキテクチャ的な無理をしているので、来年はこのあたりの解消を確実にやっていくのが、足元の目標ではないか。

今年得た技術として一番大きいのは、メインのDBを使い慣れたRDBMSではなくDynamoDBを使うことにしたことである。僕が今まで一番使ってきたデータストアはMySQLであり、ロックの仕方やパフォーマンスチューニングに一定の蓄積された知識があった。そうではなく、全く未体験のNoSQLを使うのはなかなかに抵抗があることであり、できるのかなと思ったが、理屈では出来て感情が拒否しているという感じだったので、やってみたらちゃんと動いてよかった。なんならボロボロでread/write throttlingが起こる状態からproduction readyの状態に持っていったチューニングもやったので、そのへんもどこかで話してみたい。

一年を通してかなり真剣に付き合った技術としてGraphQLがあるが、エコシステムは独特であるものの、数あるスキーマ定義言語/メッセージングプロトコルの一つであるので、あんまり自分の中では特別視していない。今後も型有りRESTful API定義言語として付き合うと思う。

とはいえ、サーバサイドの変化の流れもある。今年はEC2で運用されていたトラディショナルなアプリケーションをECSを使ったフルコンテナ環境に持っていったこともしたが、よっぽど理由がない限りはこれがLambdaやCloudRun/knativeといったサーバレス環境に行く流れを感じている。またコンテナやサーバレス環境で賄えないような機能要件も、FirebaseやAuth0やstripe、SendGridといったSaaSを併用するようになっていくと思う。ただ、これは僕らが向き合っている市場環境で取りうる最適な選択肢であって、コスト面や機能面で折り合わずに自作することもあると思う。けれども、僕には内製することが製品に大きなアドバンテージを与えるわけではない場合には、外部の部品を使うのを、前よりもためらわなくなったと感じる。

それでも、コアの機能は自分たちで作り続ける。むしろそれに専念するために、必要ないところはSaaSを使う。今の仕事でいうと、トーナメント表の進行管理や対戦管理が自分たちのシステムで今一番価値があるところだと僕は思っているので、それにはかなり力を入れる。それ以外は、外部サービスをできる限り使う。

ただ、SaaSをフル活用するというのは、知識のロックインにもつながる。あるSaaSで手に入れた知識を他のSaaSで使えるとは限らない。こういうとき、僕はプログラムを書くというより、組む、組み合わせると言う事が多いが、自分がモノをイチから作っている感覚ではなく、すでにあるパーツを組み合わせて新たなサービスを作っていると感じるからだ。昔の言い方だとマッシュアップと言ったり、別の観点だとオフザシェルフというかもしれない。

自分でイチから作らないことに対して、僕はあまり危機感を感じていない。知識を新たに手に入れなければいけないというのはそうだが、それはやればいいし、ドキュメントの読み方や探し方、共通のAPIの叩き方や扱い方などそういったメタ知識をためていくのが重要だと感じているからだ。最近だとwebhookといった形で、SaaSから自分たちで用意したエンドポイントにイベントを送信されることがあるが、こういったのもメタ知識である。

来年はLambdaにより傾倒するようなアーキテクチャを組むようになるだろうし、よりNoSQLを活用するようになるだろうし、SaaSも活用すると思う。それを胸張ってハックしているというぐらいにものにしたいと思う。

趣味

キーボード

今年は一気に失速した。現状、興味を失ったに近い状態にある。というのも、人と会わなくなったり、新しいハードウェア欲があまりなく自分のために作るつもりにもあまりなれなかったからだと思う。とはいえPulsarは今でも欲している人がいるし、異常にハンダがむずくて僕が発送を行うたびにめっちゃ細かいUSB-Cコネクタのはんだ付けをして発狂する現状が改善されればまた販売にチャレンジしてみようと思う。

買い替えた。

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とはいえ前に乗っていたのは、実家近くの知り合いに譲ったので、また実家に帰ったときに乗らせてもらおうと思う。本当に楽しい車だった。色んな所に行った。

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歩く

世の中こんななので、8月くらいまで家の中に引きこもりっきりで、仕事で時々会社に行くぐらいの生活で、睡眠の質も悪く、思えば体的に辛かったなと思ったのですが、9月ぐらいから歩くことを考えていた。

初っ端に9月に奥日光に行った。そんでもって戦場ヶ原を歩いた。

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そのあとに伊豆で海近くの崖を歩いたりした。

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それから、新たに始めたキャンプのついでに長瀞の山を登った。

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ソロキャンプ

YouTube見てたらキャンプしたくなり、キャンプを始めた。車を持っていたのも大きい。

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特に意識してなかったのだけれど、ワンポールテント+プラシパラトカの組み合わせをしているので、軍幕っぽい感じのコーディネートになっている。

来年へ

いつも来年はこれをしたいなあとここに書くのだけれど、今年は意外にも現状維持ぐらいにしか考えていない。死ぬのか?いや、今のまま平穏に暮らしたい。

とはいえ、状況が改善されてオフラインイベントがある程度開催され、旅行にもある程度行けるようになり、人と交流を持ちたい。それが叶わなければ、今どきにあったコミュニティを探すかもしれない。来年のことはわからない。。。

あーあと、Rustやりたいんだった。ずっとやりたいって言っているのをどうにかしたいですね。

Webサービスの機能を実装するか否か取捨選択のときに考えること

スマホアプリでも業務アプリでも同じようなことがあると思うんだけども、僕が携わってるのはツール的なWebサービスなので限定しておく。あとこれは個人的な体験から生まれた思考です。

 

ツール的に使われるWebサービスを作っていて、機能が十分に足りてなくて、何か追加するならこれ、という選択肢がいくつもある場合にはやはり全部一気に取り掛かることはできない。なんでかっていうと、一応言葉にしておくと、欲しい機能は無限に溢れ出てくるように見えるが、実装に使えるコストはそれに比べてかなり限定されているからだ。

 

金があればいいかと言われると、機能というのは人が多かれ少なかれ取り組んで出来るものだし、人を雇うには金が必要だが、金があれば必要な人が確保できるかというとそうではない。誰でもいいというわけではなく、ある程度プロジェクトの分野の知識がなければ、余計に時間を浪費する。また人が多くても、束ねるのも労力が必要で、小回りも効かなくなる。そこまで来ると小さい開発チームに分割していくのが業界的にも良いとされているが、マネジメントをオーバーヘッドと考えると、コストに対する効率が悪くなるように見えるかもしれない。なお、僕は直接成果物に触ってプロジェクトにコミットする職能ですが、マネジメントをやる人も必要なものだと感じる派閥です。

 

また、Webサービス開発においていい感じにチームを割れた経験は僕にはなく、少数精鋭で各個撃破が一番良いと思っている。しかし少数精鋭の効率の良いチームを作って回していくのも困難な話なのだ。

 

さて、各個撃破するということは、実装する機能に優先順位をつける行為に直結する。だとすれば、どういう基準で優先順位を付けるか。これにもいろいろな考え方がある。

 

まず、使われる機能であること。これは最優先事項である。使われない機能を実装することほど無意味なことはない。

そんなことは当たり前の話で、しないだろうと、皆さんは思うかもしれないが、サービス開発において、使われない機能を実装してしまうのは往々にしてありうる。

SNSや問い合わせなどで「この機能が欲しい」「この機能があればあなたサービスに乗り換える」という要望を受けることがある。これ自体は大変ありがたい。けれども、お客さんはその機能が実装されたからといって、その機能を使う義務はない。また、望み通りのものが実装される保証はない。いくら言葉で説明しても、頭の中のニュアンスまでそっくり他人に移植出来るわけではないからだ。

なので字面をそのままそっくり受けとるのは、僕は危険だと思っている。でも要望自体は捨ててはいけない。その言葉の裏に隠れたニーズを汲み取るが重要だ。でもこれは推測でしかなく、不確実性も高い。

 

では、実際に使われる機能を実装するにはどうすればいいか。これはチキンエッグ的結末で恐縮なんだけども、やってみてこれは望みのものでしたか、と聞くしかないと僕は思う。

要望する人がチーム内や会社内の人間であったり、開発費用を負担してくれるような協業パートナーであれば、まだ容易い。パワポでこんなのどうですか、と持っていって説明すれば、だいたい擦り合わせることができる。

ただ、相手が不特定多数の一般ユーザさんだと途端に難しくなる。直接言葉を届けられる相手以外だと、まだ世の中にないものを伝えるのは難しい。また限定的な機能でリリースしたり、モックを作るのも手ではあるが、お客さんは完成品が欲しいのであって、試作品を見たいわけではないので、これもまた上手く伝わるか自信がない。

 

僕は過去にゲームアプリ開発の現場にいたことがあり、以下のような体験をしたことがある。ゲーム開発では、本開発に入る前にモックやパワポの段階で面白いか、や、売れるか、を見て進退を決めるのだけども、試作の段階だとエフェクトや綺麗な絵や音が入っていないことが大半である。でも見たいのはゲーム性の部分なので本来は必要がない部分であるし、鍛えられた人であれば想像で補える。ただ、訓練されてない人は、きれいな表現を面白さの根源と勘違いしてしまって、判断を誤ることがある。きれいな表現は面白さを増幅するが、0に何掛けても0なので、0かどうかを判断しなければならない場で、掛ける側を見てしまうと事故が発生してしまう。

 

Webサービス開発でも同様のことはあり、経験を積んで試作品と完成品の差分を覚えて我々は試作品から完成品を想像できるようになる。ただ、世の中の大半の人はそうではないので、試作品を不特定多数の人に晒すのはかなり勇気がいることだと僕は思う。それが完成品と勘違いされるのが最もダメージがでかいからだ。

 

僕が思う、一般のお客さんがサービスに要望を出してそれを通すにはどうすればいいかを考えてみる。

それは、そのサービスを現時点で使っていること、さらにそれを周囲に公言していることが大事だと考える。サービスを使用している時点で利害関係者だ。もちろんまだ見ぬ未来にやってくるお客さんのために何か作るのも、サービスの拡大発展には必要である。しかし、これは博打で、使われない機能を作ってしまうリスクが高くなる。また、すでに使用しているユーザーであれば機能実装後にフィードバックを得て、作ったものがニーズからズレてるかズレてないかを判定できる。新しいユーザーというのは、新しく機能が実装されたからサービスを使い始めようというのではなく、大半が他人が使ってるから自分も使おうとなる。観察しているとそういう傾向だ。なので、すでにサービス自体を使っていて、フィードバックを得やすく、周囲に公言している人の意見を重要視したくなる。また、サービスと一蓮托生の人ほどとことん考えられたユースケースを提案してくるだろうというメタな推測もある。

 

ただ、これもある視点ではリスクをはらんでいる。今いる人にとってな大事な機能が、将来のユーザにとって障害になることもある。僕はこれをゲームアプリで学んだし、ゲームはそれがライフサイクルに組み込まれているものの、Webサービスはそうはいかんやろとも思う。

よくデザインや機能がリニューアルして既存のユーザから使いにくくなったと不評を受けるサービスがあるけれども、我々作る側は、上記のことを自分の中の天秤にかけて判断し、それから実際の綱渡りをしていると感じる。一歩バランスを崩せば真っ逆さまである。

 

サービス運用というのは、走ってる車の部品を走りながら取り替える行為をずっと続けるようなもの、と会社の人が言っていたのを思い出す。それは動いているプログラムを壊さないように機能を付け足す観点だと思うけれども、機能自体を付け足して、それ自体は完璧に動くが、サービス全体で見たサイクルが壊れることもしばしばある。

 

でも、これだから物を作るのって楽しいんですよね。

Webサービスの障害対応のときの思考過程

起こってほしくはないのですが、あらゆるWebサービスは完璧に動作する状態を維持することは難しく、やはり障害対応・トラブルシューティングといった作業が発生します。

筆者は普段仕事で障害対応を不幸なことによくやるのですが、障害対応のスキルというのはスピードや判断の正確さが求められるせいか、今までやったことがある人・ノウハウがある人に集中し、それ以外の人は眺めるだけ・あとからログを見返すだけの状態によく陥ることがあります。

これはWebサービスを開発・運用するチームとしてみたときにそういった苦労が特定の人に集中するのは良くないので、それを緩和する目的として、筆者が障害対応時に考えていることを記述してみます。なお、これが唯一の正解ではないとは思っているので、ツッコミや、自分はこう考えているよというのを教えていただければ幸いです。

具体的な手法を避けて思考の方法を述べているのは、障害というのはパターンで解決できることはそんなに無いからです。また、Webサービスによって監視項目やロギング、アプリケーションの特性、インフラ設計などがまるっきり違います。なので、調べ方や考え方など、手法に至る過程を記述したほうがより汎用的かなと考えました。

障害とは

ここで言葉の定義をはっきりしておきましょう。ここでいうWebサービス障害とは、サービスにビジネス上のインパクトを与えるような事象が発生したときのことを指します。インパクトの大小は問わず、例えばデプロイの結果、フロントエンドのUIがデグレってしまって特定の人しか使わないような機能のボタンが隠れてしまったケースも障害とします。人によっては「バグ」だとか、「不具合」と言うかもしれませんが、ここでは乱暴にひっくるめて「Webサービスの障害」として扱います。

障害対応の段階

Webサービスの障害を人間の病気と同様にあてはめてみると、急性期回復期慢性期に当てはめられます。また、病気の期間について調べたところ前兆期という言葉も見つけたのでこれも使ってみます。

前兆期

Webサービスの障害が発現しない段階です。しかし放置すると、障害が発現してしまうような状態を指します。

ここで運用する人が認知できてきたらもうけもので、Webサービス監視というのは、こういった障害の前兆を見つけるためにアラートを仕掛けています。しかし、病気と同様で症状が出ない状態で予兆を見つけるというのは至難の業であり、そもそもこういった前兆が来ると予想してアラートが仕掛けられているのであれば、それが出ないような対策もセットで取られていて、なかなかアラートが出ない、なんてこともあります。とはいえ、対策が無効化されるような変更を、考慮漏れでシステムに加えることもありますし、不要ではありません。

またアラートにはならないが、障害の前兆をメトリックから見つけることは、普段とは違う箇所を探すことでもあり、普段を知らなければ障害を認知することもできないわけです。筆者は、新しくWebサービスを担当することになったら、最初の一ヶ月ぐらいは、毎日数十分はサービスメトリックを見て、普段のWebサービスの負荷特性などを見ます。Webサービスによって負荷が高まる時間帯や曜日なども違い、また負荷が高まったときにまずボトルネックになる部分というのも違ってきます。そのために普段を知るのが重要です。

こういった前兆を見つけた場合、トリアージを行います。たとえば1時間以内に対策を取らないと障害に発展するとなれば、優先度高とし、障害に準じる形の作業を行います。1ヶ月放置しても良い障害であればissueを立てて、週に一回の定例などで共有しタスクの割当などをすればよいでしょう。

急性期

障害が発現した状態です。障害の発現状態には様々あり、サービス全体がダウンすることや、一部の機能が使えなくなる状態、全員もしくは一部のユーザがログインが出来ない状態になったり、ごくごく特定の条件で進行不能に陥るなどあります。

こういった急性期になったとしても、障害が見える形で現れていないこともあります。先述したように一部の状態にあるユーザのみが機能不全に陥っている場合、そのユーザからの報告がないと障害に気付けないこともあります。障害に気づくにはどうするべきか。監視であったり、ログ収集を行って障害を検知できます。一般ユーザ向けのサービスであればTwitterをサービス名でエゴサーチすることも出来ますが、障害が起こったときはだいぶ心が痛むので、はじめのうちはやらないことをおすすめします。

障害が起こったときには、以下のことをリストアップします。

  • 障害の技術的な事象
    • 「ページが見られない」だけでは正確ではなく、ステータスコードは200が返るが白いページ, 404や500などの想定していないステータスコード, 200が返りHTMLは返せているが一部の画像やCSS・JSなどのリソースが取得できずに壊れているなど、技術的な情報を正確に把握することが重要です
    • 「ページが壊れている」という報告だけでは、「なにかが起こっている」しか得られません。技術的な症状の情報を得て、原因を絞り込む手がかりとしていきます。
  • 正確な影響範囲
    • 全員に同じことが起こっているのか、それとも一部の人だけに起こっているかだけでも、原因の範囲を絞り込む手がかりになります。また、対応する人も変わっていきます。全員に起こっている場合、インフラ側に近い問題なことも多いですが、一部の人に起こっている場合は、インフラ側ではなくアプリケーション側・フロントエンド側に原因があることがあります
    • しかし、キャッシュに起因する問題は影響範囲がじわじわと広がっていくなど、これだけで原因の範囲を決めつけるのは早急です。あくまで当たりをつけたり、後述するダメージコントロールの判断材料に使います
  • 具体的な再現方法
    • 影響する人が限られたり、特定のページ・機能だけに障害が起こっている場合、障害が起こっている事がわかって、症状がわかったとしても、その障害を起こすための手順が特殊である場合があります
    • 再現方法を特定するために一番早い方法は、再現した人に前後の操作など聞き取ることですが、開発チームの中の人ではなく一般ユーザからの報告であった場合、困難になります。障害が起こったときから時間が経っている場合は忘れている場合もあり、不正確であることがあります。その情報をもとに調査する場合は、まず裏を取ります。裏を取るというのは、アクセスログであったり、こういった障害やカスタマーサポートのために出している行動ログから報告された行動と照らし合わせます。数字や固有名詞は見間違いなどが起こる事が多いので、裏を取ることが大切です。
    • こういったログがあれば、報告なしにそれだけで再現手順を導けることもあるのですが、当たりをつけるという意味で、一般ユーザさんからの報告は大いに役立ちます。

急性期にはまずここまでができれば御の字で、特に再現方法などは導けないこともあります。また、一つ忘れていると思われることで、「根本的な原因」があります。原因は突き止めることができればそれに越したことはないのですが、急性期に行うべきことであるダメージコントロールには必須ではないです。

ダメージコントロール

急性期に行うことは、根本的な原因を解決するのではなく、障害の被害が拡大するのを止めるダメージコントロールです。具体的なダメージコントロールの手法としては、

  • 障害が起こっている機能・ページを止める
  • サービス全体をメンテナンス入りさせる
  • 負荷に耐えるためにサーバ台数を増やす

などが挙げられます。これらの対処法に原因を特定し、それを直す手法は含まれていません。すぐに直せるのであれば、こういったダメージコントロールを行わずに障害の根本原因を断つのもいいと思いますが、そういった対処をすぐ取れないケースは多々存在します。

この考え方は、ユーザに対して正しくサービスを提供できないサービスはサービスを提供しないことよりも悪いという考え方のもとに立っています。また、アプリケーション側のバグによって、データを破壊していき、それ以後の復旧を困難にするような障害の場合は、直すことよりも止めることをより強く推奨します。

とはいえ、機能を止めたりメンテ入りさせたりするのは、ビジネス上のインパクトが激しく、サービスのステークホルダーの判断が必要です。障害対応はエンジニアだけではなく、サービス全体の判断が下せるステークホルダーの参加も必須になってきます。この場合のステークホルダーとは、お金を管理するプロデューサーなどの人たちを指します。ステークホルダーの人たちも、もしかしたらアラートを受けるべきかもしれません。みなさんが担当するサービスではどうなっていますでしょうか?

またユーザに対して影響が少ない形で、障害を止めるためには、Webサービスそのものに対する理解も必要です。普段、ユーザさんがどのようにサービスを使用しているのか、どういった機能を重点的に使っているのかという知識です。こういった知識がない状態だと、正しくサービスを止める判断ができなくなってしまうので、普段からドッグフーディングをすることも重要です。

複数の障害発生とトリアージ

障害というのは同時に起こることがあります。大体は一つの原因が、別々の障害として表出するのですが、急性期には2つの事象を1つの原因として考えて同時にさばく暇はありません。なので同時に別々の障害に対して2つを対処する状況に陥ります。

まず、2つの事象を明確に切り分けます。この切り分けというのも実は難しい仕事です。切り分けずに全部サービス止めるというのも一つの手です。もし切り分けられたら、優先度をつけます。例えばごくごく一部のユーザにしか出てない現象は後回しにしたり、データを壊さずに表示だけの問題であっても後回しにします。データを壊すような障害は直さない限り永続的に出てしまうので、できれば最優先で直したいものです。

もし、それぞれが優先度中ぐらいで、同じぐらいの優先度であったり、バックエンドととフロントエンドなど、明確に分野が切り分けられる障害であればチームを分けます。それ以後はチームは独立して働き、進捗を報告するぐらいにとどめます。

慢性期

障害の事象自体がダメージコントロールによって収束したとに訪れるのが慢性期です。障害の原因は表出していないが、隠された状態です。まずその隠された原因を調べます。

原因を調べる手がかりとして、急性期に挙げた「障害の事象」「影響範囲」「再現方法」が使えます。また、このときにはまだ調べていなかったログや、アプリケーションコード、インフラの設定などをすべて見直して障害と原因の因果関係について迫ります。

さて、こうして幸いにも障害の原因がわかるとそれを直すということになるのですが、この直し方についても考える必要があります。

例えば、永続的データストアのデータが障害によって汚染されている場合、それを修正した上でないと直したコードであっても障害が残ってしまう場合があります。その場合、データを直すバッチスクリプトなどを流すわけですが、先に直したコードを本番化しなければまたそういった汚染データが発生するなどの状況もありえます。どちらを先にやればいいのでしょうか。

1つの方法としては、ダメージコントロールと同様に障害の原因となった機能を一旦停止して汚染されたデータが新たに発生しないようにした上で、修正バッチスクリプトを流して本番化、それから機能の提供を再開させる手法が考えられます。

もう1つの方法として汚染されたデータを考慮したコードに修正するというのもあります。しかしこういった、後方互換性を考慮したコードは後々消す手間であったり、消し忘れて歴史的経緯が消えて混乱することもあるので、できれば直したらすぐに消してしまいたいところですね。

また、アプリケーションコードの場合、原因を修正するためにはテストコードもセットで書きましょう。デグレが起こって同じ障害が起こることは往々にしてあります。筆者の体感としても、一度障害が起こった場所はまた起こりやすい傾向にあります。なのでテストを書きましょう。テストを書いてCIを回せば世に出る前に障害を防ぐことができます。こんなにコスパがいいことは他のあまりありません。

回復期

晴れて障害が原因まで解消されました。ここで余裕があれば原因の分析を行いましよう。アプリケーションコードが原因であれば、

  • 原因となったPull Request・修正はどこか
    • コードレビューの観点に加えたり、もし自動検知できるものであれば、そういったテストを書いたり、linterを入れる
  • アーキテクチャに問題はないか
    • アーキテクチャが複雑・データのバリデーションが甘い、甘くなりやすい・予想外の挙動が起こりやすいなど
    • 漸進的にアーキテクチャに小修正を加えられるならそれが一番幸せで、全部書き直すのは最終手段
  • 障害に気づくまでの時間が遅くなかったか
    • 監視項目の充実
  • 障害の原因や影響範囲を探るのが困難ではなかったか
    • ログを増して似たような障害に備える

など、見直しをしつつ、障害対応を行わなかった他の人たちが追体験できるような場を設けると、チームとしての障害対応力も向上するかと思います。

まとめ

以上、障害対応を時系列をもって考えるポイントについて挙げてきました。まとめると、

  • 前兆で気付けるのが一番良い。そのために監視とログがある
  • 障害は見つけるのも困難であることが多い
  • 障害レポートは客観的に・技術的に正確に
  • 障害収束は原因の修正が一番の目的ではなく、障害を拡大させないこと
  • 原因を修正するときは直し方も考える
  • 障害対応についての情報を積極的に周りに伝える

といった感じです。この文章がみなさんの障害対応のときの備えになると幸いです。

2019年の振り返りと2020年の抱負

こんばんは、そろそろあけまして。

去年のやつ 2018年の振り返りと2019年の抱負 - ぱいぱいにっき

なんか読んでいると、デュアルモニターに苦労していたようですが、今もカチカチ切り替わってて目に悪いです。

登壇

色々やった気がする。

YAPC::Tokyo 2019

speakerdeck.com

Perl5で静的解析をするという野心的な話だった。それゆえ不完全燃焼に終わった面もあり、YAPC::Kyoto 2020で発展版をお見せしようと計画している。

mackee.hatenablog.com

golang.tokyo #25

speakerdeck.com

なんか静的解析ばっかりやってないか? 仕事ではそんなでもないし、何ならこの時期は自動生成できそうなコードを手でゴリゴリ書いていた気がする。

沖縄学生×企業エンジニア 7月大LT大会!!!

speakerdeck.com

アナグラ君 id:AnaTofuZ が行ったイベントに沖縄まで飛んでいった。沖縄は去年に引き続き3回目。やっぱり沖縄はごはんもうまいし、気候も良いし、いい。。。

この話はゲームのサーバエンジニアって職業がそこまでやること広まってないよね、他の業界の人や学生さんにって思って作った資料。

ただ、同じイベントであとの方に発表したこっちのほうで覚えている方が多いのではないか。

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builderscon 2019

speakerdeck.com

今年はbuildersconでトークしたし、これ以外にもゲリラのカンファレンスバッジを作成して配った。

hachiojipm.hatenablog.com

僕の中で今年、もっとも腕が伸びた技術は基板の制作だったり、表面実装のはんだ付け技術だと思う。

マスタデータNight #1

speakerdeck.com

もともとマスタデータNight的なイベントをやりたいと言っていた。

今年のCEDECでこのトーク CEDEC2019: 大規模モバイルゲーム運用におけるマスタデータ管理事例を聞いてやはりやらねばと決意し、

id:karupanerura さんをはじめ多くの方に協力していただき、イベントを開くことが出来た。その1発目のトークが上記のもの。

よく考えたら自分が発起人のイベントで一発目に話す人っているだろうか。でも、このイベントの方向性を決めるという意味で、はじめに喋ったほうがと自然に決めた。

イベント自体は大盛況で、アンケートも高評価が多かったので、早速次回を構想しています。

仕事

今年は特定のサービスのチームに所属するのではなく、要素技術の研究開発や、社内の共通ツールの整備などをしていた。会社ブログのAdvent Calendarに結構書いた。ドメインに密着していないことをやっていたからか、外に言えるようなことが多く出来たとも言える。

CircleCI API v2で自由自在に業務ワークフローのタスクを実行する - KAYAC engineers' blog

runc脆弱性に対応するためにうっかりECSからFargateにしました - KAYAC engineers' blog

ゲーム内お知らせをHugo+Netlify CMS+CircleCIで作りました - KAYAC engineers' blog

GitHub APIを使うBotたちのGitHub Appsへの移行 - KAYAC engineers' blog

新マスタデータ管理システムakashicの開発 - KAYAC engineers' blog

GoのDBライブラリと俺たち、それからsqlla - KAYAC engineers' blog

Lambdaを使ったサーバレス構成の社内アプリのデバッグのためにX-Rayを使ってみた - KAYAC engineers' blog

社内勉強会をサロンにmigrationしました - KAYAC engineers' blog

今年はこういう仕事してて、なんだか今まで一番肌に合う仕事だったなと思う。孤独感も感じることもあったが、僕は技術でオーバーキルすることに快感を覚えるようだし、チームの中でやっていくとオーバーキルはなるべく避けなければならない。自分が最後まで面倒見きるつもりだったら、技術的オーバーキルもある程度認められる面があると思う。もちろん底上げという面でオーバーキルをソフトキル程度にするために、周りに広めないといけない。テスト書きまくってメンテナンス日リティを向上するのもそういう手段だろう。

来年はあんまりこういう感じじゃないので残念だけれど、またこのスタイルに返ってこれるようにしたい。

個人開発

何より今年はキーボード作って売ったことだと思う。

mackee.hatenablog.com

中国の工場ではんだ付けしてもらってキット化した。

ほかにも「うんこキーボード」なるものも作った。

うんこキーボードは、個人で自宅で単価1000円以下のキーボードデバイスを100個量産できるかというチャレンジのもと作ったものだ。様々な電子工作的ハックを重ねて概ね達成できた。この成果を今後のカンファレンスバッジ頒布業に活かしていこうと思う。

旅行

今年は

2月に仕事で大阪

いい湯でした

なるほどこういう感じな

5月のGWに香港・深セン

なう

photos.app.goo.gl

7月に沖縄

モノレール

我々はいまボトルネックにいる

10月に名古屋

現地のあさごはんです

これ

11月にカンボジア・タイ・マレーシア・香港

まどろみのなかからこんにちは

まいにちビール

お先にいただきます

12月に箱根

おはようございます

めっちゃ行ってる。

香港・中国と東南アジアを回って、「英語が出来たらもっと楽しめるなこれ!!」となった。それ以降、ちゃんと英語ドキュメントを仕事で作ったOSSで書くようになった。

来年身につけるべき技術は英語やとなっている。

私生活

同人活動

今年はあまり同人活動は出来ていない。今年の会社の自己評価に、テクい文学表現を使ってしまっているのは、発散する先がないからである。会社の人へ、長文になってすまぬ。

会社の人と書いた技術書展の書籍には書いているので、ノー同人活動ではない。あと5月の文フリにはちゃんと出た気がする。出たっけ?

今年は骨折なしで終われそう。他に大きな怪我や病気もしてないので、様々なことに感謝。ただ、体重面が現状維持かちょっと上向きなので、課題感はある。

ゲーム

ONIとデスストぐらいか。あとテトリス99。どうタワはレート2500行った後にシーズン切り替わってリセットしてからやってない。この前ポケモンタワーバトルをしたら、どうタワ界の方に煽られまくって憤死したので、何らかの鍛えが必要。

大学生の時に使っていた実家の車を、この年末に自宅に戻ってとってきた。いじり甲斐があるので楽しみ。

婚活

3戦3敗。土俵に立ててない説もある。

2020年の抱負

仕事面は……まあ求められたことをやる感じだろうか。もしかしたら転機があるかもしれない。静的解析とマスタデータへの興味は失わないようにする。フロントエンドもちゃんと本気だしてやる必要がありそうな気配。

ハードウェアはキーボードを足がかりに同人ハードウェア界に本格進出するみたいな目標を立ててみる。同人誌もな〜ちゃんと書かんとな。

せっかく車を得たので、色んな所に足を伸ばしたい。足を伸ばして出来るアクティビティにチャレンジする。骨を折らない程度に。一緒にアクテビティにチャレンジする仲間を募集しております。

あと英語。何をどうするのが一番自分に適しているかわからんから、これって思ったのを片っ端からやって覚えるのがいいか。

まとめ

書いている間に年を越してしまった。しかし、文を書きながら年越しできるのは幸せなことなのかもしれない。小さなことに幸せを覚えると、コスパがいいって思ったので、今年はそういう感じで行く。

GitHub AppsでPithubを使うためのモジュールGitHub::Apps::Authと使った黒魔術の紹介

こんにちは、おげんきですか。最近体がバキバキなので良い整体を探しております。川崎近辺でお願いします。

この記事は、Perl Advent Calendar 2019の14日目の記事です。13日目はomokawa_yasuさんのTie::Fileで大容量ファイルを処理する - Qiitaでした。今回もtieの話を少しします。

GitHub Appsって何? なんで使いたいの?

同日の会社のAdvent Calendarに記事を書いたのでこれを読んでほしい。

techblog.kayac.com

つまり、要約すると、

  • GitHub APIを叩くときに、管理とか諸々の理由で個人のGitHub Token使うやつから、GitHub AppsのTokenを使いたい
  • 個人のGitHub Tokenと違ってGitHub AppsのTokenは1時間で有効期限が切れる
    • よりセキュアであると言えるし、たぶん用途としてはWebhook来たときにワンショットで処理する感じだから、Botみたいにこちらから能動的にやるみたいなのはメインの用途ではないのでは?
    • そもそも永続的な認証トークン自体は寛大すぎた
  • 何かしらのテクで既存のGitHub APIを使うライブラリを使ってBotが動くときもコードの変更をそこまでせずにGitHub Appsに移行したい

という内容です。

最近流行りのGitHub Actionsを使えば、対象のリポジトリを操作するためのGitHub Tokenが環境変数で降ってくるので、こういう苦労はないかもしれないですね。ただ、さらにそこから別のリポジトリを触るとかすると、必要な話に。

PithubでのGitHub Tokenの扱い

Perl製のBotGitHub APIを叩くときに、Pithubを使っております。

metacpan.org

他にもPerl界ではNet::GitHubってのもあります。しかしここでは、Pithubに焦点を絞ってお話します。

public repositoryのread以外の操作を行う場合はGitHub Tokenが必要です。というわけで、Pithubのコンストラクタでは以下のように、GitHub Tokenを渡して皆さん操作します。

my $pit = Pithub->new(
  user  => 'plu',
  repo  => 'pithub',
  token => 'my_oauth_token',
);

(SYNOPSISより抜粋)

ここでtokenは文字列として渡しています。しかし、Perlにおいて文字列は変なことをしない限り不変なもの。GitHub Appsで要求されるような「1時間毎にAPI叩いて更新する」みたいなのはできないわけです。

では頑張って「変なこと」をしていきましょう。

変なこと案その1 tie

みんな大好きtie変数です。Perl Mongerの半分ぐらいがtie期の麻疹にかかると言われています。僕も今回1日ほどかかりました。

perldoc.jp

tie変数とは、Perlのプリミティブ型の変数として振る舞いながら、アクセス・代入などの機構をPerlコード上で自作する仕組みです。

今回は、変数がアクセスされるたびに、

  • GitHub Tokenを変数内部に持っていない
    • APIを叩いてGitHub Tokenを取得しキャッシュしGitHub Tokenを返す
  • キャッシュしているGitHub Tokenを内部に持っている
    • 有効期限が切れてなければそのまま返す
    • 切れていれば再びAPIを叩いてGitHub Tokenを取得してキャッシュし返す

という機構を作ろうと考えました。

今回はスカラ変数でtie変数を作りたいと考えたので、Tie::Scalarを継承してpackageを作ります。このpackageは上記の機構をObjectで管理するクラスを受け取ってtie変数として利用できるようにします。

package GitHub::Apps::Auth {
    sub new { ... }

    # issued_tokenは有効期限を考慮しつつGitHub Tokenを返すメソッドです
    sub issued_token { ... }
}

package GitHub::Apps::Auth::Tie {
    require Tie::Scalar;
    our @ISA = qw/Tie::StdScalar/;

    sub FETCH {
         my $self = shift;
         return $self->issued_token;
    }
}

そして、これをtieでtie変数にします。

my $auth = GitHub::Apps::Auth->new(...);

tie $auth, "GitHub::Apps::Auth::Tie";

すると、このあと$authは他の変数に代入するたびに、有効期限を考慮したvalidなtokenを常に返してくれるようになります!

my $token1 = $auth;
sleep 3600;
my $token2 = $auth; # $token1のトークンは有効期限が切れているので違うトークンが返ってくる。

いや〜〜ヘンtieですね〜〜〜〜。

あ、すみません今のナシ。

つまり、これで我々は勝ったか!?に思えました。が、これでは要件満たさないのです。

触った瞬間に文字列になるtie変数

ところで今まで言ってたアクセスってなんでしょうか。他の変数への代入だとか、関数に対して引数に渡すときにも変数のアクセスが行われます。では上記のtie変数をPithubで使ってみましょう。

my $pit = Pithub->new(
  user  => 'plu',
  repo  => 'pithub',
  token => $auth,
);

これで良さそう・・・? ところでこの名前付き引数でコンストラクタにtie変数を渡したときもアクセスが行われます。アクセスが行われるということは......つまりPithubに渡されるのはただ文字列トークンであるということです。

いや〜〜これは欲しいものではなかった! ほしいのは外面は文字列として振る舞いながら、中はいい感じにメソッドが叩かれていいかんじにその時々最適な文字列を返すやつ!

もうちょっと詳しく言うと、tie変数は値を収める変数に対して魔法をかけるものであって、今回ほしいのは変数の中身である値のほうに魔法をかける物が欲しいのでした。

変なこと案その2 overload

演算子オーバーロードPerlに限らず様々なオブジェクト指向言語に存在する機構です。しかしそのトリッキーな挙動から、多くの言語では黒魔術扱いされているでしょう。Perlも例外では有りません。ただ、他の黒魔術に比べると、見た目のえげつなさは抑えられているかも。

perldoc.jp

普通、演算子といえば四則演算や、比較演算子を思い浮かべるでしょう。しかし、Perlは変数を文字列として評価する際の""ダブルクオートも演算子であり、オーバーロードが可能です。その他、文字列比較演算子eqや文字列結合演算子.なども含めてオーバーロードすれば、文字列として自然に扱えるオブジェクトを作成することが出来るでしょう。

ではやってみましょう。

package GitHub::Apps::Auth {
use overload
    "\"\"" => sub { shift->issued_token },
    "." => sub {
        my $self = shift;
        my $other = shift;
        my $reverse = shift;

        return $reverse ? $other . $self->issued_token : $self->issued_token . $other;
    },
    "eq" => sub { shift->issued_token eq shift };

    sub new { ... }

    sub issued_token { ... }
}

そんでって、Pithubに突っ込む!

my $auth = GitHub::Apps::Auth->new(...);
my $pit = Pithub->new(
  user  => 'plu',
  repo  => 'pithub',
  token => $auth,
);

これで、GitHub::Apps::Authインスタンスは、文字列として振る舞うので、Pithubの内部でもObjectとして保持されるものの、いざ使われるときはそのときに使われるトークンを払い出します。結論を言えば、CPANに上げているGitHub::Apps::Authはこの方式を採用しています。

勝った・・・! Pithubでもちゃんと使えるのと、1時間以上経ったら新しいtokenが使われているのを確認しております。

その他の工夫

上記のoverloadの定義だと、文字列結合をした際には「常に有効なtokenを返す不思議な文字列」としての性質を失ってしまいます。なので、文字列結合のメソッドはもう少し工夫をしています。

use overload
    "." => sub {
        my $self = shift;
        my $other = shift;
        my $reverse = shift;
 
        $other = "" unless defined $other;
 
        my $new_self = bless {}, ref $self;
        %$new_self = %$self;
 
        $reverse ?
            $new_self->_prefix($other . $new_self->_prefix) :
            $new_self->_suffix($new_self->_suffix . $other);
        return $new_self;
    };

クラスのattributeとしてprefixとsuffixの入れ物を用意し、文字列結合をしようとした際は、objectをcloneした上で、新しいobjectに結合を試みた文字列を入れています。

そして、tokenを返すときに、prefixとsuffixをその場で結合して返しています。

sub issued_token {
    my $self = shift;
 
    if ($self->_is_expired_token) {
        return $self->_prefix . $self->_fetch_access_token . $self->_suffix;
    }
 
    return $self->_prefix . $self->token . $self->_suffix;
}

この工夫で例えば my $header = "Bearer x-access-token:" . $auth;のように文字列結合をした場合でも、GitHub Tokenの部分は1時間ごとに入れ替わります。

この措置は、GitHub APIクライアント側で認証のために使うHTTPヘッダをあらかじめ組み立てて、それを使い回すようなケースを想定して実装しています。

まとめ

  • Pithubとかに渡すGitHub Tokenと入れ替えるだけでGitHub AppsのTokenが使えるモジュールを書いたよ
    • CPANにすでに上げているよ
  • 中身はoverloadっていう黒魔術を使っているよ
    • あんまりやりすぎると制御が効かなくなるよ、たぶん
  • patches welcomeだよ https://github.com/mackee/GitHub-Apps-Auth
  • PithubにPull Request送るのも試してみますね

明日はbayashi_netさんです。

右手にペンタブ持っている人向けの左手用 #自作キーボード を作っています #builderscon

こんばんわ。今日から30歳です。祝ってくれ。

pulsarっていう左手キーボード作っているって話

これです

できたヨー! #自作キーボード

スペック

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  • 9キー + 親指ダイヤル + 親指が届くところに左右のレバースイッチ
  • 小型OLED
  • キー配列(これ押したらこれが入力されるとか)を自由に設定可能   - ダイヤルやレバースイッチも設定可能
  • microUSB接続   - ゆくゆくはType-C化や無線化もしたいが

youtu.be

  • キーごとにフルカラーLEDを搭載   - 配色も設定可能
    • 上記動画はダイヤルで色変え、レバースイッチで点灯パターン切り替えを割り当てたデモ
  • キースイッチはメカニカルキースイッチ   - ソケット接続なので自由に違うキースイッチに差し替えることができる   - LEDの形状の関係でkailh BOXやkailh Speedしか使えるのを確認できてない。Gateronは浮くのでダメだった

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  • 商品として売るならユーザが半田付けする箇所をなくした状態で売ろうとしている

進捗

f:id:mackee_w:20190721141644j:plain

  • 自宅での小ロット量産は出来た
  • 身近な人にユーザーテストしてもらうところ
  • 基板の量産は見積もりお願いする段階
  • アクリル製ケースは試作中
  • プログラマ以外の人が使う自作キーボードなので、配列のリプログラミングをGUIで出来ないか模索中

販売の予定

  • 面白半分で50枚ぐらいの量産をするので、そのままboothとかで売ります。早ければいいですね   - いきなり売れるとは思ってはいない。同人ハードだし

というわけで上の作る過程の話とか作るのに必要な知識の話をするから来てくれ!!!

buildersconっていうカンファレンスでそういう話をします。

builderscon.io

聞きたい人は来てくれ!! ところでこの記事を書いている時間の2時間後にチケット販売締切です。 

[https://twitter.com/builderscon/status/1153190436359397376:embed##builderscon tokyo 2019 チケット販売終了まであと数時間です! 当日券はありません!迷う時間もありません!是非おはやめに!

https://t.co/cWx1oZ3uaT]

 

YAPC::Tokyo 2019で静的解析の話をしてきました #yapcjapan

こんにちはこんばんわ、トーカナイザの守護霊ことmacopyです。

YAPC::Tokyo 2019に参加してきたので、そのご報告です。

喋ったトークについて

speakerdeck.com

「Perl5の静的解析入門 機械と人間双方の歩み寄りによる平和編 」と題して発表しました。喋ったこととしては

  • 一般的に静的解析とは
  • Perl5における静的解析ソリューション
  • PPRというモジュールの使い方の例
  • 静的解析がしやすいコードを書こう

という感じです。スライド的にはこの後に

ということが書かれています。事前の練習通りのところで終わったので、想定どおりですが、やはり不完全燃焼ですね。静的解析自体がマニアックな課題なのでなぜそれが必要なのか、それをやりたいのかの説明が必要です。でないと聴衆側は置いてけぼりになってしまう。これは僕のどのトークでもそうなんですが、扱うことがマニアックで前提の話が長くなる。

YAPC::OkinawaのWebSocketの話も同じことになったので前半部分をあらかじめスライドとして公開したのですが、それでも当日の反応を見ると観衆を置いていってしまったような印象を受けたので、今回はスライドは2時間前に全部公開しつつ前半しかやらないということにしました。が、それが誠実なのかどうか、、というのは、、、すみませんです。。。

どこかでフルで話すか、もっと深掘りするかなどしたいですね。ここで話してよという方がいれば日本各地どこでも向かいます。

聞いたトークについて

  • 2019年冬のPerl
    • 5.30の開発についての話があったが、盛り込まれるコミットが少なくなり、CPANでも開発者がいなくなっているという話が寂しく思えた。一方Perl6は6.dの仕様が出て盛り上がっているように見えて対照的な印象を受けたが、あとからどっちもどっちではという感じのことを言われてまあなるほどだなと思った
    • 言語コミュニティというのは多かれ少なかれ人が作るものであり、他人が作らなくなったからと言って、自分が作れなくなるというのは違うと思う。Perlの開発者はマイノリティになりつつあるも、使っている人はたくさんいてナレッジはいて活躍する場もまだ残っているので、ここに参入すればブルーオーシャンである。みなさんどうですか

  • Perl to Go
    • 僕もPerl書きつつGoを書いているクチなので、「あ〜わかる〜」という感じでした
    • DB周りは僕も苦しんだのでスライドをじっくり読みたい
    • GoはPerlよりも命名センスが問われる気がする

  • PerlプログラムでPerlプログラムを修正する方法

    • perlbrewの作者であるgugodさんのトーク
    • 僕の直後かつ僕と結構内容が被っていて内心「申し訳ないな...」と思って聞いていた
    • Perl::Criticでreviewdogは、僕のトークの事前調査でやっていたことにひとつなので入れなくてよかったと思った。ちなみにreviewdogがうまく動かなかったので、自前でGitHub PR Review Commentに書くやつが手元にPerlスクリプトとしてある
    • go fmtしかりeslint --fixしかり、コード整形や良くないコードを自動で修正するというのは流行りではあるが、それにPPIを使うのはなるほどなと思った
  • レガシーPerlビルド 〜現代に蘇るPerl[1..5].0とPerl6〜

    • アナグラくんの発表だけれど、完全に面白い
    • 考古学と銘打っているけれど、こういうの僕は大好きです。地元の郷土研究しているおじいさんが本を書いて図書館に寄贈みたいなパターンあるけれど、あれをPerlでやっているみたいな
    • プログラムをビルドすること一つとっても、研究対象になりうることがわかるし、現代ではPerl5を用いて実現していることがPerl5より前には存在しないので、どうしていたのか、鶏卵問題!!!ってなるので面白いですね
  • WebVRで作品を作って展示しよう

    • WebVR実用段階ってなった
    • 僕もWeb技術は好きなので、HTML書くノリでVRがやれるのは良いなと思った
    • 長年つけていた夢日記を流そうというのが面白いし、運用のハックなんかも見れて、意外に実用的〜となった
    • Oculus Go買っちゃうかQuestまで待つか迷っている日々です
  • ISUCON8予選問題作成の裏側

    • 僕も決勝問題作成の裏側にいたので苦労が忍ばれます
    • 過去のISUCONのアンサーというのがコンテキストがあっていいなと思った。若干ウェットだし、嫌われる人には嫌われるかもしれないけれど、隠し味として歴史を使うのは良いと思うんですよ
    • 解ける問題にする と 解き方はいろいろあるようにする というのが結構相反する性質を持っていて、当日は解ける問題だよね、大丈夫だよね!?ってなるし、実際決勝はそんなことが話されていたりしました。しかし決勝で優勝した解かれ方は想定と違うアプローチだし、エンジニアリングって楽しいなってなる
  • 多くのCPAN Authorに育てられ、息をするようにCPANモジュールを書けるようになり、そして分かったこと

    • Songmuさん本当に良かった...
    • こういうエモトーククリティカルヒットする瞬間ってあると思うし、エモトークやって最大限効果を発揮するコンディションってあると思うけれど、それが今回だったのかもしれないなあと思う
    • エモは共感呼んでなんぼで僕は大いに共感を得ました
  • LT

    • npmはCPANクライアントっていう話が面白くて、社内のHTML5チャンネルでシェアしたら、弊社でUnityで似たようなことやっている人がいた
    • xtetsujiさんのPerl入学式のLTも和やかな感じがあり良かった。ちなみに懇親会後の2次会はPerl入学式の方々と朝まで語ってました
    • 門松さんもPerl入学式からの方ですが、自走する人を見つけるというのは興味深いアプローチだなと思った。最近の僕はいかに自走するように仕向けるかを考えている....
  • tokuhiromさんのキーノート

    • Okinawaのyappoさんに引き続き、どのようにコミュニティとやってきたかという話だった
    • 意識的にやっていったわけではないかもしれないが、コミュニティはやはり人が作るものであって天から降ってくるものではないなと思った。コミュニティ作りやっていくぞと決意した

そんな感じで、様々なトークに様々な示唆を得て大変価値のある時間でした。

次は未定とのことですが、次も是非参加したいですね。よろしくおねがいします